設計について話そう
#1  設計前の目線づくり
Talk with: 大峯俊平(DESIGN O-TSU)

山下工務店House Construction部の山下陽平が、森島モデルを設計したDESIGN O-TSU大峯竣平さんと「設計」についてお話しました。


山下:これまでも数々の家づくりをご一緒してきた設計士の大峯さんと、森島モデルについてお話できればと思います。

大峯:森島モデルは、(山下)陽平さんが僕に「とある団地の一角でモデルハウスを作りたい」と相談してくれたところから話は始まりましたね。

森島モデル:2020年、石川県白山市に建築されたモデルハウス。「街並みに調和しながら、新しいベーシックとなる家」というコンセプトのもと、シンプルな外観でありながら機能性に富んだ設計が特徴。住む人の趣味嗜好やライフステージに合わせて編集のしやすい余白のある空間が用意されている。

山下:当時は自分も「山下工務店House Construction部(以下:YHC)」を立ち上げたばかりで、部名もついていなかった頃だと思います。母体となる山下工務店で培ったノウハウを活かして、あたらしいコンセプトの家を作っていきたいと考えていて、その第一弾となった家が森島モデルでした。そのときタイミングよく大峯さんが独立したと噂を耳にして、「相談するなら今だ!」と。

大峯:はじめは、森島モデルを設計する前に「誰のための家を作るのだろう?」という目線づくりから話し合ったのをよく覚えています。万人に受ける家を作ろうとすると、やっぱりどこの工務店でも、ハウスメーカーでも家の印象が変わらなくなってくる。陽平さんと色々と話を進めていく内に、「自分の生活を、自分なりに工夫して楽しめる人」に向けて、家の在り方を考えたらどうだろうという方向性が見えてきて。例えば、無印良品を好きな人って、ただ安ければいいという考え方ではなく、買ったものをどのように自分の暮らしに活かしていくか、とても美意識の高い方が多いと思うんですよね。自分で選択して、自分なりに楽しむ。そんな人たちが気持ちよく過ごせる家ってなんだろう?と考えたのがスタート地点でした。

山下:最初は「美意識を持っている人に住んでほしい」という話だけ大峯さんにしたのですが、その辺の感覚はすでに大峯さんの中に元々あって。この考え方は、二人の中でわりとスムーズに決まりましたね。

大峯:山下工務店の地元である鶴来の街並みに調和しながら、新しいベーシックとなる家を生み出したかったのもあります。人と街、そして陽平さんの想いを意識しながら、どこを見られても恥ずかしくない家にしたいという気持ちは強くありました。あと意識したことは、陽平さんの人柄ですね。例えば、内見会とかモデルルームで、スーツ着た大きいおじさんが出てくると少し圧を感じるじゃないですか(笑)でも、陽平さんみたいな優しい人が出てきて案内することを考えたら、優しい空間、柔らかい空間というものが頭に浮かびました。

細々としたことより先に、
まずは「気持ちの良い家」を

大峯:設計プランを考えていくときに意識していたことは「特殊なことはしないけれども、よくあるものにもしない」ということでした。いろんなハウスメーカーさんを見ていると、はじめから細々としたプランや資料を渡されることがよくあります。でも、今回はそういった従来のやり方ではなく、多少細かいものを無視してでも、「気持ちの良い空間」を意識したプランを提示しました。たとえば、最初は広めの空間だけを用意しておく。人によっては収納が足りないのではないかなどと思われますが、収納家具を置く将来性まで考えた広さにしています。「こういう間取りだからこういう使い方しかできませんよ」といった制限を極力無くし、未来を見据えて展開性のある空間プランを目指しました。それと、やっぱりシンプルであるということは、その分お客さまも建築費を抑えられるということにもつながるので、そういうメリットも意識しながら、この森島モデルでやってみようということになりました。

山下:大峯さんのつくるプランは一貫して抜け感があって、広々とした玄関だな、気持ちの良いリビングだなというのがすぐにわかります。今でもそのおおらかなプランというのは、YHCの最大の売りとなっていますね。

大峯:例えば玄関前のポーチとか、普通だったら四畳半なんて広大なスペースを取らないんですけど、いつも通る場所に植物など育てられる広いスペースを用意してあげることで、庭の手入れを怠りがちな人も管理がしやすくて、何より毎日通っていて気持ちが良い。

ポーチ:玄関の前に設置された屋根付きのスペース。玄関ドアの開閉時に雨や雪、日差しを防ぐ役割を担う。また、人を迎え入れる場として美観要素における重要なスペースでもあり、植栽や装飾、照明によってその家の印象を可変的に形成することができる。

あと森島モデルのLDKはそこまで広いわけではないんですが、外にあるポーチの見え方や、二階への吹き抜け、他にもさまざま抜けを施したことで、小さな家でも工夫次第で開放感のある気持ちの良い空間を実現できました。山下工務店の緻密な仕事も効いています。ニッチな部分も手を抜かない丁寧な仕事ぶりが、見ている人にとっての「なんかいい」という良い違和感に繋がると思っていて。なにより、陽平さんの人柄もあって、気難しい職人さんでも陽平さんのためなら全力でやってくれるんですよね。設計したプランが、陽平さんや職人さんたちの丁寧な仕事によってさらに洗練されていく。この関係性も森島モデルに現れたと思います。

LDK:リビング(居間)ダイニング(食事場所)キッチン(台所)を示した略語。日本の伝統的な住宅は「和室」を中心とした間取りが一般的だったが、高度経済成長期の人口増加に伴い、アパートやマンションの需要が急増。その際にLDKといった西洋の生活様式が取り入れられるようになった。

吹き抜け:1階の天井および、2階の床を設けずに、上下の階がつながっている空間のこと。室内に広々とした開放感をもたらすだけではなく、日中は自然光だけで十分な明るさを確保することができる。日本建築における吹き抜けの歴史も古く、1400年前の寺院などでも活用され、建物内部に採光と通気を取り入れる環境的な役目を担っていた。

世代の暮らしに寄り添う、
新しいベーシック

大峯:設計する上で、お客さんの暮らしに寄り添える「編集性」も大切にしました。お客さんの年齢層はさまざまですが、例えば、これから子どもを持とうとしている30代のご夫婦なども多く、森島モデルではあえて最初のプランでは子ども部屋をがらんどうにしています。そこを自分の部屋としても、これからの子どもの部屋としても使える設計としました。

山下:森島モデルを皮切りに、お客さんの客層も徐々に変化してきました。シンプルながらに編集性のある家が好きな人からの依頼が集まってきていますね。森島モデルで道筋がきれいに拓けたので、YHCの大きな方向性が見えてきました。外観も特殊なことはしていないのですが、ごちゃごちゃと加飾せずとも、窓の形や配置だけで他の家と並んだときの雰囲気の違いは一目でわかる。そういった意味でも、森島モデルは鶴来という地元に新しいベーシックを生み出せた家だと思っています。もちろん今後、鶴来に限らず、さまざまな場所でもこの「新しいベーシック」という言葉を大切にしていきたいですね。

大峯:実際に街の中にあると、他の家と比べた森島モデルの雰囲気の違いがわかりますよね。

山下:本当そう思います。では次はデザインについてお話できればと思います。

大峯:よろしくお願いいたします。


大峯 竣平[デザイナー/二級建築士]

1990年石川県出身。金沢美術工芸大学 美術工芸学部環境デザイン専攻を卒業後、設計事務所や工務店(生物建築舎、株式会社済田工務店)勤務を経て、2018年より額村計画室、2020年にデザインオツへ改組。

大峯 竣平[デザイナー/二級建築士]

1990年石川県出身。金沢美術工芸大学 美術工芸学部環境デザイン専攻を卒業後、設計事務所や工務店(生物建築舎、株式会社済田工務店)勤務を経て、2018年より額村計画室、2020年にデザインオツへ改組。